コラム
Jリーグクラブライセンス制度について
2023年6月23日、鹿児島ユナイテッドFCから衝撃的なニュースがリリースされました(「Jリーグからの通達について」)。
内容は、J1ライセンスの交付につき、新スタジアム整備の状況確認のため、Jリーグ側から追加書類の提出を求められたというものです。
このリリースを機に、鹿児島ユナイテッドFCがJ2に上がれないのではないかという不安が広がり、鹿児島のスタジアムに関する議論が盛り上がっております。
Jリーグのクラブライセンスに関しては制度が複雑であり、どのような現状なのか理解が難しかったため、簡単にどのような制度か調べてみました。
ただし、以下の内容については、公表されている現在の資料のみを基に、簡単に調べただけのものですので誤りが含まれているかもしれない点はご了承いただけると幸いです(その際はご指摘いただけると幸いです。)。
Jリーグライセンスとは?
Jリーグライセンスとは、Jリーグが採用しているプロクラブの資格制度です。
2013年にアジアサッカー連盟がクラブライセンス制度を導入することになったことを受け、日本でもクラブライセンス制度が導入されました。
クラブライセンス制度導入の目的は、サッカーの競技水準や施設的水準の向上、クラブの経営安定化等が挙げられます。
クラブライセンスは、「J1」「J2」「J3」の3つに分けられます。
J1ライセンスが一番厳しく、J3ライセンスが一番基準が緩やかになります。
また、制度としては、J1ライセンスとJ2・J3ライセンスの間には大きな差があり、J1ライセンスはJリーグとは独立した第三者機関(FIB)が審査をし、決定に対しての上訴制度がある一方、J2・J3ライセンスは、第三者機関ではなくJリーグ理事会で審議され、上訴の制度もありません。
以前は、J2ライセンスも第三者機関(FIB)での審査が行われていましたが、2023シーズンより、J2ライセンスがJ1ライセンスと切り離され、J3ライセンスと同様にJリーグ理事会で審査されることになりました。
J1ライセンスの中身
J1ライセンスの基準には、①競技基準、②施設基準、③人事体制・組織運営基準、④法務基準、⑤財務基準の5種類の審査が存在します。
各ライセンス基準は、A等級、B等級、C等級に分けられます。
A等級:達成が必須なもので、基準を満たさないとJ1ライセンスが交付されないもの。
B等級:達成が必須なものであるが、基準を満たさなかったとしても、J1ライセンスが交付されないものではなく、制裁が科されるもの。
C等級:達成が推奨されるもので、未達成でもライセンス交付に影響はなく、制裁もないもの。
スタジアムの基準でいうと、J1基準では1万5000人以上、J2では1万人以上入場可能なスタジアムを有しなくてはならないというものがあります(芝生席はカウントされません。)。
このスタジアムの入場者可能数はA等級であり、基準が満たされないとJ1ライセンスが交付されません(ただし、後述の通り、例外要件があります。)。
また、スタジアムの基準では屋根に関するものもあります。
「観客席の3分の1以上が屋根で覆われている必要がある」というものです。
しかし、この基準はB等級とされています。つまり、基準を満たしていないとしても、ライセンスが交付されないということはなく、制裁が科されるにすぎません。
制裁の内容としても、
・対象スタジアム名公表
・屋根のカバー率不足への改善策もしくは構想の提出
というあまり厳しいものではありません。
白波スタジアムの現状
白波スタジアムは、入場可能者数1万2606人とされています。
J1基準が1万5000人以上、J2基準が1万人以上とされていますので、J2基準は満たすがJ1基準は満たさないスタジアムということになります。
入場可能者数は、A等級の基準ですので、このままでは、J1ライセンスは取得できません。
また、屋根に関しても、メインスタンドの一部についているのみであり、3分の1以上が屋根で覆われているという要件は満たせていません。
ただ、屋根基準はB等級基準ですので、この要件を満たさなくても、ライセンスが取得できないということにはなりません(ただし、制裁があります。)。
スタジアム例外条項の創設
2019年までは、スタジアム要件には例外条項がありませんでした。
つまり、白波スタジアムのままでは、仮に鹿児島ユナイテッドFCが好成績を上げ続けても、J1には上がることが出来ませんでした。
しかし、2020シーズンのライセンスより、以下の通り、一定期間スタジアム整備の猶予期間を設けるという例外条項が創設されました。
J1クラブライセンス交付規則 運用細則 2-2 I.01
(2) 前項に関わらず、基準I.01(2)においては、「Jリーグスタジアム基準」に明示した項目についてのみ、以下のとおり例外を設ける。① ライセンス申請者が、J1ライセンス申請時に、以下のいずれかに該当するものとして「例外適用申請書」を提出し、基準I.01の例外適用がJリーグ理事会で承認された場合は、基準I.01を満たしているものとする。
イ. 要件を満たすための工事が着工されており、かつ、当該ライセンス申請時から4年以内に到来する最終のシーズンの開幕前日までに工事完了・供用開始し、工事期間中も試合開催に支障をきたさないと合理的に認められる場合
ロ. Jリーグ規約第34条第1項の要件を満たすスタジアムを将来的に整備することをライセンス申請者が文書で約束した場合
つまり、現時点では、J1基準を満たすスタジアムを有さない場合でも、①要件を満たすスタジアム工事が既に着工されている場合、または、②Jリーグが定める「理想的なスタジアム」(Jリーグ規約第34条第1項)を将来的に建設することを約束した場合には、J1ライセンスの取得を認めるというものです。
「理想的なスタジアム」とは、以下の通り、ただJ1基準を満たすスタジアムよりも厳しい要件が定められたスタジアムです。
Jリーグ規約第34条〔理想のスタジアム〕
(1) 公式試合で使用するスタジアムは、Jリーグスタジアム基準を充足することに加え、アクセス性に優れ、すべての観客席が屋根で覆われ、複数のビジネスラウンジやスカイボックス、大容量高速通信設備(高密度Wi-Fi等)を備えた、フットボールスタジアムであることが望ましい。
(2) 前項の「アクセス性に優れる」とは、次の各号のいずれかを充足していることをいう。
① ホームタウンの中心市街地より概ね20分以内で、スタジアムから徒歩圏内にある電車の駅、バス(臨時運行を除く)の停留所または大型駐車場のいずれかに到達可能または近い将来に到達可能となる具体的計画があること
② 交流人口の多い施設(大型商業施設等)に隣接していること
③ 前各号のほか、観客の観点からアクセス性に優れていると認められること
まさに、鹿児島市が現在建設を目指しているような街中・複合型スタジアムのことですね。
2020シーズンより、この「理想的なスタジアム」の建設約束をすることで、J1ライセンスを取得する道が開かれたのです。
鹿児島ユナイテッドFCをめぐる歴史
2016,2017シーズン
鹿児島ユナイテッドFCは、2016年、2017年シーズンは、J3ライセンスを取得しました。
特に2017年はJ2ライセンスの申請したにもかかわらず、白波スタジアムが改修中であったことから、J3ライセンスしか認められないという苦い経験をしました。
2018,2019シーズン
そして、2018年、2019年にはJ2ライセンスの取得が認められました。
これは、白波スタジアムが入場可能者数1万人以上という要件(A等級)は満たしているものの、屋根の充足率基準(B等級)は満たされていなかったことから、スタジアム名の公表と改善策の提示という制裁を受けた上でのJ2ライセンス取得でした。
ただ、2018年のライセンス取得では、他の問題が生じていました。
それは、大規模改修時の屋根の設置に関する基準に関する問題です。
そのことは今回の鹿児島ユナイテッドFCのニュースリリースでも触れられていました。
「今回の通達の背景として、2018シーズンのJ2クラブライセンス申請時(2017年度)において、ホームスタジアムである白波スタジアムで行われていた大規模改修工事は、2020年のかごしま国体に向けたものであり、Jリーグスタジアム基準「新設及び大規模改修を行うスタジアムについては、原則として屋根はすべての観客席を覆うこと」を満たさないものでした。しかし当時、ホームタウン内に新たなスタジアムを整備する構想が存在しており、鹿児島県および鹿児島市からもJリーグに対して整備実現に向けて取り組んでいく意向が文書にて表明されたことを踏まえ、二重投資を避けるという趣旨をJリーグにお汲み取りいただき、J2クラブライセンスが交付されました。」(「Jリーグからの通達について」)
スタジアム基準では、「新設及び大規模改修を行うスタジアムについては、原則として屋根はすべての観客席を覆うこと」という要件が定められています。
これは、J2以上のライセンスでは必ず具備しなければならない要件とされているものです。
この当時、白波スタジアムは、2020年国体に向けて「大規模改修」をしていましたので、J2ライセンスを取得するためには、本来は、全ての観客席を屋根で覆う工事を行う必要がありました。
しかし、白波スタジアムの改修はあくまで国体に向けての改修であったため、鹿児島ユナイテッドFCとしては、新スタジアムの構想があることを説明し、二重投資を避けるという趣旨から特別に全ての観客席を屋根で覆う工事なしでJ2ライセンスの交付を受けたようです。
今回、白波スタジアムの改修で足りないのか?という検討がされています。
しかし、Jリーグ側からすると、2018年のライセンスの時に新設構想があることを理由に、白波スタジアムの大規模改修時の屋根に関する要件を例外的に緩和したにもかかわらず、やはり白波スタジアムの改修となると2018年のライセンス付与の前提が崩れるので、容認できないという意見になる訳ですね。
2020シーズン以降
そして、2020年から2023年まで、鹿児島ユナイテッドFCは、J1ライセンスを取得します。
これは、先ほど挙げた例外要件のうち、「理想的なスタジアム」に関するもの、
ロ. Jリーグ規約第34条第1項の要件を満たすスタジアムを将来的に整備することをライセンス申請者が文書で約束した場合
を利用してのものです。
鹿児島市が街中・複合型スタジアムの建設を明言していたことから、クラブとしては当然の選択だったでしょう。
実は、この例外要件については、以下の通り、建設までの期限を定めた条文が付されています。
前号ロの例外に基づきライセンス申請者がJ1に昇格したときは、ライセンス申請者は、当該昇格決定後3年以内に到来する最終のライセンス申請時までに、場所・予算・整備内容を備えた具体的なスタジアム整備計画を提出しなければならない。
また、昇格決定後5年以内に到来する最終のライセンス申請時までに工事完了し、供用開始が行われなければならない。
ただし、工事完了・供用開始までの期限については、ライセンス申請者が当該期限内に到来する最終のJ1ライセンス申請時に前号イに基づく例外申請を行い、これが認められたときは、4年以内に到来する最終のシーズンの開幕の前日まで延長される。
なお、想定外の事象が発生し、やむを得ないと認められる場合は理事会にて例外規定の適用の有無を決定する。
しかし、この要件は、J1に昇格した際に発動する要件であることから、J1に昇格したことがない鹿児島ユナイテッドFCには関係がありません。
(2019年にJ2昇格をしていますが、その際は例外要件の適用を受けて昇格した訳ではないため、期間制限要件は発動しません。)
このように「理想的なスタジアム」の建設約束による例外条項は、J1に昇格しない限り、期間制限もないものになっているのです(規定の不備のような気もしますが…)。
また、J1ライセンスを有しているクラブは、J2,J3リーグにも加盟できるとの条項があることから、現状でJ2基準を満たさないスタジアムしか持たないクラブでも、理想的なスタジアム建設を約束することで、J2,J3リーグにも参加できることになります。
今回問題となった点と今後の見通し
今回、第三者機関(FIB)が問題としたのは、鹿児島が「理想的なスタジアムを将来整備することを約束した」といえる状況にあるのか、ということと言えそうです。
「Jリーグの見解としては、その後6年が経過している現時点においても、未だ新スタジアムの整備に向けた基本計画の策定にも至っていないことや、白波スタジアムの改修が選択肢の1つとして考えられるのではないかとの話が出ていることなど、新スタジアム整備に向けた動きが停滞しているのではないかと認識されており、今後のクラブライセンス判定においては、これまでの経緯および現状を踏まえて不交付と判断される可能性があるとのことです。」(「Jリーグからの通達について」)
比較的容易にJ1ライセンスが取得できるようになった例外規定の反動と思いますが、「整備約束」の内容に絞りをかけ、この条項に該当しないという判断があり得ることを明らかにしたものだと思います。
今後の見通しですが、白波スタジアムの大改修では、J1ライセンスの継続は難しいと思われます。
理由としては、新スタジアム建設を前提に大規模改修時の屋根建設を免れ、かつ、2018年から現在までのライセンス付与を受けた前提を覆すことになってしまうこと、大規模改修に該当することから全ての観客席を屋根で覆う工事が必要となり、多額の費用が掛かるためです。
「理想的スタジアム」整備約束によるライセンス付与を受けるためには、市街中心地から概ね20分程度という要件があるため、まさに鹿児島市が建設を予定しているような本港区での建設しか採りうる手段はないでしょう。
今回の市及び県の進展状況に関する文書でFIBがどこまで納得するかですが、そもそも規定に期間制限が置かれておりませんし、建設約束を撤回したというような状況でもないことから、J1ライセンスを付与してもらえる可能性はあるのではないでしょうか。
ただ、このような状況が続いた場合には、規定の改正や、現行規定の解釈を狭めることによりライセンスが付与されなくなる可能性も十分にあることから、安心はできません。
最後に
以上、Jリーグクラブライセンスについて調べてみました。
将来を悲観しすぎず、ただ、迅速に話を進めていく必要はありそうです。
難しい問題が多くあるとは思いますが、是非とも、冷静に、前向きに議論を進めてもらいたいですね。